■部会長あいさつ(堤 和通 中央大学総合政策学部教授)

tsutsumi sensei 社会安全政策論の着想は、近時には、犯罪学の統合理論の進展に、少しさかのぼると、法を問題解決の道具とみる法学にたどることができます。現在の刑罰を犯罪に対処する既定の解とみるのではなく、犯罪事象をミクロ、マクロの観点から眺めて、問題の所在を突き止め、法の支配の理念に適うバランスのとれた処方箋を導き出すことを目指します。人が出生時に備える形質と生態学的な環境の相互作用の中で発達をしていくのだとすれば、犯罪行為、あるいは広く、社会的逸脱行動も同様に、その選択や行動にかかわる、ミクロとマクロの要因の探求が、問題へのより有効な対処に必要になるのではないか、という目で眺めると、再犯者率の増加、サイバー空間での損害・犯罪、DVなど親密領域での暴力など、喫緊の課題もまた違った様相で捉えられるかもしれません。
 犯罪事象への適切な対処が良い社会に必須であることは間違いありません。その際に、あまりに近視眼的になるのではなく、長い目で見て有効性がある、そして、一人ひとりが尊厳ある存在として生を全うする、という法の支配の理念に適う最善の解決策を探す一つの場になることを願っています。

 ■社会安全政策論とは

 社会安全政策論とは、「犯罪を典型とする人間の反社会的行動から、個人と個人の暮らしのための社会的基盤を守る(犯罪等を統制・制御する)ための政策の在り方を研究する」(田村正博元警察大学校長による定義)比較的新しい学問領域です。
 社会安全政策論は、我が国の治安が悪化していた頃に、警察・検察等の刑事司法機関による犯罪の事後的な検挙・制裁だけでは治安が守れない、政府全体、国民全体が過重な負担を負わない範囲でそれぞれの役割を果たすことによって治安を守ることができるのではないか、という発想から生まれた考え方です。
 社会安全政策論の特徴は、
(1)主権者国民の視点から(警察等の政府機関の視点だけではない)、
(2)社会正義の実現、国民の権利利益の保護・人権保障、経済の発展、予算の効率的な執行その他の関連する別種の法目的・政策目標との均衡に配意しつつ(犯罪者の処罰そのものが目的ではない)、
(3)国、自治体、民間公益団体、地域住民、企業等公私の諸主体が行う(警察だけでない)、
(4)故意又は過失による犯罪(事件・事故)や反社会的活動から国民の安全・安心を守るための(犯罪だけでない)、
(5)政策(立法政策を含む。)や公共的・公益的活動の在り方を総合的に検討する(刑事司法、規制行政に限られない)、
 研究活動であるところに在ります。

 ■社会安全政策教育研究部会の活動

 社会安全政策論教育研究部会では、「社会安全政策論」に関する教育研究を普及促進するため、次のような活動を行っていきます。
(1)警察政策学会ホームページや部会 Facebook を通じた社会安全政策論に関する情報発信
(2)「社会安全政策論」やその関連講座を有する大学間の情報交換・連携促進
(3)シンポジウムの開催
(4)出版事業
   (以下略)